中小企業が新規事業にチャレンジする時に考えてほしいこと

仕事柄、創業者や経営者の作成した事業計画書を確認させて頂く機会は多いのですが、最近、特に集中的に多くの計画書を確認する機会がありました。今回は、その際の所感を書いてみたいと思います。

 

事業計画書をつくる主なタイミングには大きく2つあります。

①創業するとき

②すでに営業している会社が新規事業に取り組むとき

このうち、今日の話題は、②新規事業に取り組むとき、の事業計画書です。

 

事業展開を検討するフレームワーク

 

事業展開の戦略を検討する際、良く知られているフレームワーク(考えを整理する方法)に、「アンゾフのマトリクス」があります。

(例えば、https://globis.jp/article/1586

 などを参照)

マトリクスの縦軸に「市場」、横軸に「製品」を取り、それぞれを「既存」、「新規」の2区分を設けて、4象限のマトリクスとしたものです。

既存事業は「既存市場、既存製品」の位置にあり、新規事業は

①「新市場開拓」新規市場に既存製品を出す

②「新製品開発」既存市場に新規製品を出す

③「多角化」新規市場に新規製品を出す

の3つが考えられます。つまり、新規事業とは、新規の市場または新規の製品(サービス)、いずれかにチャレンジする取り組み、という事ができます。

(※既存商品で既存市場での更なる成長を目指して取り組みを深化する戦略は「市場浸透」と呼ばれます)

 

では、この3つの戦略の中で、中小企業にとってもっとも成功へのハードルが高いと、一般的に判断されるのはどれでしょうか?

 

客観的に事業の成功可能性を見ると…?

 

正解は、③「多角化」です。

 

理由は、③の事業は、その会社にとって市場も、製品(サービス)も、初めて取り組む対象になるからです。客観的に見た場合には、中小企業が初めてのことばかりの事業に成功するのか?という判断がされてしまうのは、無理のないことと言えます。

 

①「新市場開拓」②「新製品開発」の場合には少なくとも市場または製品は既存で、社内にはその対象に対する知識や経験、ノウハウがあるはずです。そうした社内にある有形無形の経営資源を活用して、事業を進めることができる分、「多角化」よりも有利に見えますし、実際有利でしょう(それでも、新規事業に成功することはもちろん容易ではありませんが)。

 

したがって、もし事業計画書で「多角化」の事業を説明する場合には、「なぜあなたの企業がその事業で成功できるのか?」という問いに、十分に答えられる根拠を、計画書の中に織り込む必要があります。例えば、あなたの今の会社にとっては新規の市場や製品であっても、実はあなたが起業前に勤めていた会社で行っていた事業で取り組んでいたとか。あるいは、その市場や製品に詳しい専門家を雇用するとか、その市場や製品で実績のある企業とコラボレーションするとか。

 

今回確認した事業計画書の中には、「多角化」にあたる事業でもその事業に取り組んで成功できると考える根拠を明確に書いてあるものもあれば、ただ単にやりたいから、という思い(熱意)だけが書かれているもの、中にはそうした思いさえも書かれていない計画書もありました。これらの事業計画書の客観的な評価は、言わずもがなでしょう。

 

「多角化」に向けて、経営者がすべきこと

 

そして、上にあげた例を見ても分かるように、「多角化」のためには、新たな経営資源を投入することが必要な場合が多いです。投入すべき資源とは、単純に人件費や外注費といった「費用」だけでなく、そういった外部に協力を取り付けるための経営者の「時間」も含みます。特にご自身のことをアイデアウーマン、アイデアマンだと思っていらっしゃる方は、日頃から色々な事業アイデアが浮かび、その中には「多角化」のアイデアも多分に含まれているでしょう。「多角化」のアイデアは、自社の経営資源の制約を受けない分、発想しやすいからです。一見魅力的に映る新規事業のアイデアが、こうしたコストの投資に見合うだけのリターンをもたらしてくれるのか?保有する経営資源が特に限られている中小企業においては、十分に考慮したいところです。 

 

新規事業を始めるのに、あなたが一人で決心すればそれで始められる、という場合には、まずはあなたが納得できればそれでいいでしょう。しかし、金融機関から融資を得たい、ベンチャーキャピタルから投資を受けたい、社員に新規事業への担当をお願いしたい、という場合には、新規事業に取り組む意義とリターンを説明し、理解を得ることが必要になります。

 

決して多角化戦略自体を否定しているわけではありません。しかし、多角化の戦略を取る場合には、「あなたがその事業を行う意味はどこにあるのか?」ということを、是非考えて頂きたいですし、それを言語化、見える化していただきたい努力を、経営者にはして頂きたいと思います。