中小企業論(鵜飼教授)ゲスト講演録①

2018/10/26ゲスト講師  根岸産業有限会社 根岸洋一さん

 

【バックグラウンド】

●如雨露の歴史について調べている。ポルトガル語で「噴出」を意味するjorroが語源とみられる。

●創業72年で、洋一さんは3代目。

初代の祖父は板橋で神社仏閣の屋根職人をしていた。

戦後、墨田に移ってトタンで煙突、塵取り、衣装缶、如雨露などを制作。

●2代目はお父様。高価格の如雨露制作を始めたのはお父様。

上野グリーンセンターなどの盆栽園に通って研究していた。

既存のものの改良点を生かす形で銅製竿長如雨露を制作。

当時、柄杓で水をあげるのが通常だったので、それをモチーフに制作。

ここ20年ほどは、如雨露のみを制作している。

●3代目洋一さん。幼い頃から工場で梱包などを手伝っていた。

中学生の頃から如雨露制作も手伝う。

大学卒業後SEとして勤務。お父様がなくなったことをきっかけに、SEを辞めて専念。

 

【クオリティーコントロール】

●盆栽の専門家に、3か月に1回ほど商品を渡してチェックしてもらう。

●購入者からの声や、インターネット上の情報を集約して

毎年4月に商品のバージョンアップについて検討し、商品に反映させる。

●昔の商品の修理を行う際には分解して行うが、

その際の気づきから新しいアイデアがあれば次の商品づくりに生かすようにしている。

 

【現在の事業】

●海外での拡販を目論んでいる。

・墨田区の事業で海外現地での流通/商品調査

・「すみだコンテンポラリー事業」

 海外のデザイナーとのコラボ開発事業。

 根岸産業はロンドンをベースに活動するデザイナーとの商品開発

・「東京手仕事」プロジェクトで海外の展示会出展や国内でのテスト販売実施

●イタリア、スペインに弟子がおり、3拠点で生産している

 

【鵜飼ゼミとの関わり】

●2015年より、区内企業診断の対象企業に

・2015年 生産性に関わる分析

 提案を受けたレイアウト変更は、生産を止めることはできないため、長いスパンで考える

・2016年 認知度向上、PRに関する対策

 日本語、英語でパンフレットを作成しよくある質問に答える、使い方動画の作成

 →問いあわせの電話が減少!

 若者を取り込む…メンバーに意見を聞いて商品検討      

  5種の金属を使う(5大陸をイメージ)

・2017年 SNS活用…インスタグラムなど

 

【考察】

●常に自身を進化させる取り組みをしている

 専門家による品質チェック、顧客の声のフィードバック、海外展開への挑戦など

 

「根岸産業有限会社」

http://www.negishi-joro.co.jp/

 

2018/11/6 ゲスト講師 有限会社大野精機 大野和明さん(製造技術責任者)

 

【バックグラウンド】

●丸物加工をメインとした金属加工業の家族経営

「小さい会社には、変化に適応するために一歩踏み出しチャレンジするストーリーがある」

●大学卒業後、食品スーパーのサミットを経て、25歳で大野精機に入社

●サミットは科学的な経営をしており、今の町工場での仕事にも参考になっている

気づきの1つは「町工場と食品スーパーには共通点があること」

・規模によって商売の仕方が違う(大型スーパーと小規模店、大企業と中小企業)

・ともに、本来売るものは製品、商品だが、

 「町工場は工場を創る」=無形の技術を生かす工場をいかに作るかが大事。

 「スーパーは店舗を創る」=無形の販売ノウハウを生かす店舗をいかに作るかが大事。

 工作機械も野菜も、自分が作っているわけではない。

 

【ものづくりに対する考え方】

●「工場づくり=モノづくり」である

・技術の継承をどうするか(ヒト)、設備の選定と導入、配置をどうするか(モノ)

 腕(技術)で、どう稼ぐか(カネ)

●無形の技術で、どうやって作るか

・「図面は譜面」ものづくり(加工)には、作と演の視点がある。

  作=図面の設計、演=図面に基づく加工

  演の視点⇒チャッキング、加工工程、冶具設計をどのように行うか

       急がば回れ、補助線思考の活用など。

・”設計と加工どっちが偉い?”の自分なりの答えは、

  大切なのは共同作業(チームプレー)。サミットで学んだこと。

 

【図面仕事依存からの脱却】

●町工場が常に直面する課題

・金属加工は競争し烈 1社依存は大変。納期交渉、価格交渉難。←距離感保つ努力

・図面で受注する仕事には浮き沈みがあり、経営が左右される。1か月先が見えない。

・部品加工、試作品から、半製品・リピート品、完成品、共同開発品、

 オーダーメイド品、標準品、消耗品(独自の規格品)へのシフトを目論む

 

【リベットシェーバー】

●橋のリベットの塗装を剥がしたいという要望があり、開発に着手

 昔の技術(古い旋盤の技術)を応用して開発、試作品を制作

●現場テストで開発の現場を知る 全国の橋梁に足を運んだ

 ⇒部品加工のようにその通りに作ればいいわけでないことを知る 

●10年かけて形になる。その後、六角ボルト対応し、大田区コンクール奨励賞

 

【自社商品開発を通じての学び】

●「ランチェスター戦略」…人生の転機となる学びを得る。

 弱者の戦略と戦術がある。大企業と中小企業は違う。

 誰もやっていないやりたがらない分野で1位をとるのが大事

 すき間でNo.1、オンリーワンを目指すのではなく「作る」

●ゴリラホルダー…予想の100倍売れる
「旋盤 内径 ホルダー」で検索するとは、大野精機のみ

 

【今取り組んでいること】

●定価の仕事を増やすこと…今ある設備、技術でも、営業方法で変わる

●ある特定分野で1位を取ること

●自分で考案して、検証して、販売する=選ばれ続ける努力をすること

 

【下町ボブスレーで学んだこと】

●協力すること…ネットワークの「再」構築、Giveし続ける、横の繋がりは決算書には乗らない価値。

●たった7年で結果がでることではない。

●つかみに行く姿勢…怒られるまでやる。ものおじしている暇はない。

●発信する大切さ…作る過程を隠さなくてよい。むしろ。いかにPRできるか!を広報時代には考えてきた。

●町工場の集団…基盤技術は人の目に触れないので、これまで代表作がなかった

●きれいに作れば速くなるわけではない、タイムで評価が出るのは明快、面白い

 

【鵜飼先生の考察】

●工場に思想あり

・取引先の要求に応えるために、工場を創る

・工場によって、すべて違う。思想が反映される。

・家と同じ。同じ家は2つとない。自分の家(工場)が目に浮かぶ。

 

●「私たちは未来を作っている」中小企業は先が見えないから。

 多くの後継者(右肩上がりではないから)が同じ感覚をもつ。

 

「有限会社大野精機」

http://ohnoseiki.com/

 

2018/11/13ゲスト講師 株式会社ナイトペイジャー代表取締役 横田信一郎さん

 

【バックグラウンド】

●お父様が経営していた2008年社長就任も、2009年9月倒産(2008年リーマンショック)

 図面に頼らない会社づくりを目標に、株式会社ナイトペイジャーを設立。

●2013年内閣府の「再チャレンジ懇談会」メンバーに選ばれる。

●ものづくりを29年やっているが、新しい機械や技術に興味がない

●「大田区は図面を紙飛行機にして飛ばすと翌日製品ができる」と言われるが、

 それは図面がないと何もできないことの裏返しでは…?

 

【自社製品開発前】

●高校卒業後、父親の会社に入社。部品製造作業中の行動範囲は半径2m、

 誰のための部品かわからず、入社後数か月でひとり思い悩む。

●「下請は安ければいい、納期守って、品質良いのは当たり前。」と大手メーカーの人間に 

 納品のたびに言われる

 

【自動車チューニングパーツの販売】

●土日に部品(チューニングパーツ)を作り始める

…初めは既存品をコピーすることから。音楽と同じ。

●分解するのが原点、仕組みを理解したら妄想して作ってみる。見た目は気にしない

 手書き図面が100枚近くになった(大手の図面からも学ぶ)

●1990年くらいからオリジナル製品を作り始める

●1992年カー雑誌に広告 15万円くらい費用掛けるも、期待に反して客は来ない。

 群馬の車の改造パーツの卸問屋の主人からコンタクトあり。

 「みんなすぐやめるけど、いいもの持っているから続けたら」と言われる

 以降、3か月に1回広告打ち、少しずつ売れるように。

●価格を自分で決められること、お客さんからの感謝の声がもらえることが、

 それまでの下請仕事にはない経験

●2008年より専門誌(Gワークス)での連載も。

 

【会社の倒産⇒再起】

●2009年倒産。融資の見込もなく、税金滞納も続く状況でも、社長は復活への望みを

 持っており、説得しきれず。

●「借金返済するには100歳超えるまでかかる」ことを意識して、ようやく清算を決心する

●再起できたのは、つくりたいものがあったから。チューニングパーツの製造販売部門で

株式会社ナイトペイジャーを設立。

・EC販売の普及により、大量生産大量消費は無理な時代に。

・スーパー町工場とは違う道を進むと決める

・ゲームメーカーからの依頼でドライビングシミュレーターの製作や、

 障害者の方でも運転できる補助器具の開発

●下請けだけやっていると会う人が限られる。BtoC向けで新しいものを作ることにより、一般の人との出会いがある。

●新しいものづくりには資金だけでなく人脈。人脈を持っている人の力を借りることが大事

●nbike…大田区内の町工場で連携して製造するキックスケーターのような形状の二輪車

 メイドイン大田区にこだわり、1台100万円で販売

●「この人のために」という目的をもったモノづくりを大切にしたい

 

【鵜飼先生の考察】

・お父さんの会社である京浜精密製作所は業績を伸ばしていた時代もあるが、それは市場の成長と同じように成長していたということで、経営力があったとは限らない。

・現在成長しているIT企業も同じこと。10年経ったら淘汰されているかも知れない。

 

「株式会社ナイトペイジャー」

http://www.night-pager.net/

 

「社長室インタビュー『社長室101』」

http://www.cowtv.jp/channel/boss/227yokota/index.php

 

「再チャレンジ懇談会」横田さんの再チャレンジに対する思い

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sai_challenge/dai1/pdf/s6.pdf